「『破滅の創世』の配下、そして幹部の力は強大です。我々も同行した方がよろしいかと。そう思いませんか?」
「そう思わないから断っているんだ」

司の率直な物言いに、一族の上層部の一人はその唇に「そうでしたね」と純粋な言葉を形取らせた。

「分かりました。では、我々は本部でお待ちしております。また、何かありましたら、すぐに奏多様のもとへ駆けつけますので」

一族の上層部の者達はそう言い残すと、出発ロビーから去っていった。

「何かあったら、か……」

一族の上層部の者達の最後の言葉は、奏多の瞳を揺らがせるのに十分すぎた。
観月は不安を端的に表した。

「司、どう思う?」
「当然、俺達を尾行してくるだろうな。だが、無下にはできない。『破滅の創世』の配下達、一族の上層部、どちらも相手にするのは分が悪すぎる」

恐らく、司の言葉は本心だろう。
司を始め、『境界線機関』の者達は一族の上層部を毛嫌いしている。
だが、しかし、その働きに感謝をせぬような無礼者でもなかった。

「とにかく、本部に急ごう。下手に詮索すると危険な感じがするからな」

司の意見はもっともだった。
『境界線機関』はこの世界の未来を担う、練度の高い精強な部隊である。
それに今回、司は一族の上層部が有している神の加護に備えて、警護部隊は一族の者達だけで構成している。
猛者ぞろいである『境界線機関』の者達相手に、先程の一族の上層部の者達のみで抗するのは無謀だ。
それなのに――一族の上層部の者達の表情には動揺の色は一切見られなかった。
まるで微笑ましい出来事があったように、穏やかな笑みを堪えていた。

「本部に着くまで、この緊迫した状況が続きそうだな」

あまりに複雑すぎる想いに苛まれて、奏多は表情を曇らせる。
神の魂の具現として生を受けたこと。
尋常ならざる力を持つことは同時に尋常ならぬ運命を背負うことになるのだと、奏多は身を持って知ってしまったから。

「よし、搭乗ゲートに向かおう」

司の号令の下に、一族の上層部本部へと多くの意志が踏み込む。
奏多達、そして『境界線機関』の者達が飛行機の機内へと。
過去を乗り越えるために、本部に向かおうとする者。
一族の上層部の本部の内部の把握を心に定めている者。
その事情は様々だろうが――とにかく誰も彼も一族の上層部の本部へ向かう心算なのは間違いなかった。

「遂にここまで来れたな……。俺達が一族の上層部の本部を目の当たりにできる日が来るなんてな」
「この飛行機なら本部の近くまでいけるけど、飛行中に上空から『破滅の創世』の配下達が襲ってこないとは限らないわ」

慧と観月は後方の奏多と結愛を守りながら搭乗口を抜け、機内へと入る。
機内を歩きながら、観月は改めて切り出した。