『破滅の創世』の配下達が今回、奏多に対して使った『破滅の創世』の記憶のカード。
その記憶のカードの中には、一族の上層部が犯した罪過への『破滅の創世』の憤懣がある。
ましてやそれが延々と折り重ねった憎しみに起因するものであるならば、もはや激昂に近いかもしれない。
『破滅の創世』である奏多であればこそ、その怒りを身に染みるほどに理解している。
完全に神の記憶を取り戻せば、何度も神としての憤りに――絶望視した過去に囚われてしまうかもしれない。
そして――

「『破滅の創世』の配下達は我々、一族の者だけではなく、この世界全ての者を許さないでしょう。奏多様が神の記憶を取り戻せば、間違いなくこの世界は滅びます」

一族の上層部という存在と決して交わることがないもの。
『破滅の創世』の配下と呼ばれる者達は一族の者共々、この世界を破壊し、『破滅の創世』の神の権能を取り戻そうとしている。
『破滅の創世』の記憶のカードを手に入れた彼らは、奏多が『破滅の創世』としての記憶を完全に取り戻した後、奏多の安全を確保した上でこの世界を滅ぼすだろう。

「世界の一つを滅ぼす、それは膨大で恐ろしく強大無比な破滅の力です。そして、その滅びの過程で他の――数多の世界が巻き添えを食う可能性があるのです」

一族の上層部の一人が深刻な面持ちで告げる。
苦渋に満ちたその顔からは、その奥にある感情の機敏までは読みきれない。

「あらゆる物事は『立場』が変われば『見え方』が変わるものです。もはや、この世界を守る方法は一つ。『破滅の創世』様にこのまま、記憶を封印した上で、人間として生きて頂くしか他はないのです」

少なくとも一族の上層部は、半ば盲目的に――あるいは狂信的にそう信じていた。
数多の世界の可能性を取り込んだこの世界で繰り返される『破滅の創世』という神の加護を用いた実験と解析。
その過程で顕現する『破滅の創世』の配下達という存在は、一族の上層部にとって看過できないものになっていた。

「――白々しいな」

一族の上層部の者の包み込むようなその問いかけに――応えたのは司だった。

「そう言いつつ、単純におまえ達が『破滅の創世』様の加護を失いたくないだけだろう」

状況を踏まえた司はそう判断する。

「そうね……」

一族の上層部に意見する。
それを口にすることは、どこまでも簡単なようで、かなりの重責を担うことであるように観月には思えた。

「一族の上層部は『破滅の創世』様の神としての権能の一つである『神の加護』を有しているわ」

観月は一つ一つを噛みしめるように口にしてから視線を上げる。
どこまでも続くような滑走路は思わず引き込まれそうになるほど、陽の光に満ちていた。