「はい、私も行きますよ」

結愛はありったけの勇気を振り絞って応えた。
そう――奏多と歩む未来を夢想しているから。

「私はこの絶望の状況を乗り越えて、ずっと奏多くんの傍にいたいですから」

人間と神を阻む壁はあまりにも高く硬い。
それでも奏多と歩む未来が見たいから。その幸せが欲しい。
それがいつになるか分からなくても、遠い遠い先の話であっても。
いつかは共に進むことくらいはできるのかもしれないと結愛は信じて。

「もちろん、私も行くわ」

そう言った観月の言葉には決意が込められている。
一族の上層部の本部を知ることができれば、この先のメリットになるのは確かだ。
ただ、その根本にはどうしようもない感情がある。大切な感情が――。
今も、一族の上層部に心を囚われているまどかのような悲劇を生み出さないためにも。
かつての傷跡は気付けば、随分と保全されたものだ。
空を見上げれば、あの日のまどかと対立した光景が浮かぶようで。
隣に立っている奏多と結愛も、背後に立つ慧と司も。

今日を生きる者達は過去を越えてここに居る――。




奏多達は基地本部の復旧作業を『境界線機関』の者達に託して、一族の上層部の本部に足を運ぶことになった。

「ここから一族の上層部の本部までは、かなり距離がある。飛行機で行くのが手っ取り早いか」

事は急を要すると、司達『境界線機関』の者達は殺風景な荒地を突き進む。
奏多達は、基本的に戦闘機に搭乗することはできない。
近くの空港から、飛行機で一族の上層部の本部に向かうことになった。
先の戦いで生き延びた人々の姿を見やりながら、一族の上層部、そして『破滅の創世』の配下達と相対した時の行動について、道すがらの相談を開始した。

「今のところ、『破滅の創世』の配下達の動きはない。『破滅の創世』の配下達の手の内はまだ探れないのだろうが、今後、此ノ里家の者を狙ってくるのは間違いないな」

司がこれまでの状況から推測を口にする。

「つーか、強奪で能力を奪えるのは厄介だな。『破滅の創世』の配下達の力はどこまでも計り知れねぇな」
「本当ね」

慧と観月は底の知れない『破滅の創世』の配下達の力に改めて畏怖した。

「まぁ、アルリットは忘却の王ヒュムノスと同じく、『破滅の創世』の幹部の一人だからな」

ひりつく緊張が慧の首元を駆け抜けて行く。
『破滅の創世』の配下の者達の中でもひときわ常軌を逸している存在が『幹部』と呼ばれる者だ。
アルリットもまた、『蒼天の王』として、蒼穹の銘を戴く幹部の一人である。

「そういえば、初めて遭遇した幹部がいたわね」

そこで観月はレンの存在を危惧した。