この一帯を見舞った喧噪も鳴りを潜め、今は復旧への作業が行われている。
嵐が過ぎ去れば、風の気配はなく、戦いが過ぎ去れば、熱さを感じることもない。
ただ、言葉にもできぬ喪失感だけは胸に抱く者が多く居ただろう。

「逆手。敵が策を弄するなら、こちらも策を講じるしかないな。慧と観月と話し合ってみるか」

拳を握り締めた司は手加減はしないと意を決する。
この決意が仲間の支えとなる呼び水となるように。





「……俺が『破滅の創世』としての記憶を取り戻せば、この世界は滅ぶか」

仮の宿舎の部屋で両親とともに過ごしていた奏多は、一族の上層部の者達が訪問してきた時のことを思い出す。

「あの日、俺の――『破滅の創世』の記憶の再封印が施されたと結愛は語っていた。記憶の再封印について話を聞いた後、何故か涙を零したことは覚えている。でも、俺にはその後の記憶がない」

具体的にあの日の現状を表すなら、記憶の再封印をするために決意を口にしようとしていたはずなのに、それをすることができなかった。

『破滅の創世』としての俺は……やっぱり、みんなの敵なのかな……。

その空虚な問いに、『破滅の創世』としての返事は返ってこない。
一族の者のうち、記憶を封印する力を持つ此ノ里家の者達が主体となって奏多の神としての記憶を封じ込めている。
しかし、数多の世界を管理する『破滅の創世』の記憶を完全には封じ切ることはできなかった。
だから、一族の上層部は奏多の神としての記憶が蘇る度に、此ノ里家の者達に封印を施すように迫ったのだ。

「それにしても記憶を再封印されていたのにも関わらず、俺はあの戦いの最中、何度も『破滅の創世』としての意志を感じた。もしかしたら彼らに出会ったからかもしれないな」

奏多が何故、『破滅の創世』としての意志を感じたのか、その答えは周囲の状況が語ってくれる。

「『破滅の創世』の配下か……」

奏多は静かに呼気を吐きだした。
奏多があの戦いの最中、何度も『破滅の創世』の意志を感じたのは、レン達と出逢ったことによるものだと確信していた。

『『破滅の創世』様、必ずや次こそは一族の者の手からお救いいたします』

激戦の去り際、レンが発した決意の言葉は刹那の迷いすらなかった。

『『破滅の創世』様の記憶はいずれお戻りになられます。そして、アルリットが強奪した一族の上層部の人間の能力は、必ずや『破滅の創世』様をお救いするための一助となるはずです。そのことを決してお忘れなく』

奏多はあの時、レンが語っていた内容を呼び起こす。