「神の加護。神のごとき強制的な支配力。恐ろしい力だ」

司は唇を噛む。
神の加護。それは彼らをよく思っていなかった国家の者達さえもいつの間にか一族の上層部に味方するほどだ。
天災さえも支配し、それを利用することができる。
それでも一族の者に危害を加えようとした者は全て行方不明になった。
彼らが軍を掌握し、瞬く間に世界を席巻するまでさほど時間はかからなかった。
『破滅の創世』は記憶を奪われて、一族の上層部に利用され続けている。
その偽りなき事実が『破滅の創世』の配下の者達の怒りに拍車をかけたのは言うまでもない。

「司様。一族の上層部の方々が、今回の『破滅の創世』の配下達との防衛戦について、至急、面会を求めております」
「面会か。監視カメラは、『破滅の創世』の配下達によって全て破壊された。その後の経緯が知りたいのかもしれないな」

司は遠くから響いてくる瓦礫撤去作業の音に緊張を走らせる。
レン達は今、この地に踏み込むことはできない。
だが、他の『破滅の創世』の配下達は別だ。
援軍に来た者達が、基地本部の防衛に回っている。
とはいえ、あくまでこれは超常の領域にある『破滅の創世』の配下への威嚇程度。
倒すを確約するものではなく、どれほど妨げられるのかも未知数。

「今、この場を離れることは危険だ。だが、一族の上層部の呼び出しを無下にはできない」

それはただ事実を述べただけ。だからこそ、余計に司は自身の置かれた状況に打ちのめされる。
浅湖家や此ノ里家を始め一族の冠位の者の役割は、敵である神々と『破滅の創世』の配下の部隊に対して警戒を行うことであった。
慧達もまた、形だけでも整えた急造部隊として、隙を巧妙にうかがう『破滅の創世』の配下への牽制を行う任務を帯びている。
それは言い換えれば、一族の冠位の者は一族の上層部に逆らうことができないことを意味していた。

このままではまずいな……。

『境界線機関』のリーダーとして、超一線級の戦いを繰り広げてきた司だからこそ感じる座りの悪さ。
何より機先を制した一族の上層部の動きが警鐘を鳴らした。

「せめて、この不利な状況を逆手に取ることができれば……」

置かれた状況を踏まえて、司は勘案する。
『境界線機関』。
それは今この時の世界において、もっとも人々の興味を集める組織といえるかも知れない。
先日まで行われていた『破滅の創世』の配下による侵攻。
あたかも神の所業なる壮大な侵略の様子は、各国を震え上がらせるには充分だ。
だが、その恐怖も長くは続かなかった。
これまでの戦い同様、『境界線機関』の決死の活躍により、『破滅の創世』の配下達が去ったためである。