「……幸い、『境界線機関』の基地本部に潜入していた一族の上層部の内密者達を操ることはできたのですが……。肝心の『破滅の創世』様はいまだ、一族の者の手中に……」

レンのその表情の険しさを見れば、『破滅の創世』はいまだに一族の上層部に利用されている状況なのだろうとは予想がついた。

「レン様。今こそ、神のご意志の完遂を――」

『破滅の創世』の配下達は口々にそう唱える。
彼らは始まりの事など覚えていない。
光陰矢の如し、神命の定めを受けて生を受けたからには、彼らには朝と夜の区別など、さして気になるものでもなかった。
ただ――『破滅の創世』が示した神命。それは絶対に成し遂げなくてはならない。
遥か彼方より、望みはたった一つだけだった――。
『破滅の創世』の配下達は主が御座す世界を正そうとする。その御心に応えるべく献身していた。

「レン。わたしは今度こそ、我が主の無念を晴らしたい」
「それは私も同じ気持ちです。一族の者の手から『破滅の創世』様をお救いしなくては……!」

リディアの宣誓に呼応するように、レンは一族打倒を掲げる。
『破滅の創世』の配下達の気持ちは皆同じだ。

「まずは、記憶の再封印を解く必要があります。『破滅の創世』様の記憶を再封印した者達を、全て根絶やしにするのが手っ取り早いのですが……」

そう語りかけるレンは揺るがない意思を表情に湛えていた。

「そうだね。ただ、妨害してくる『境界線機関』は手強いね。一族の上層部はいつも固定観念にとらわれているのにね」
「だからこそ、私達の付け入る隙があるというものです」

アルリットの的確な意見に、レンは恭しく礼をした。

「まあ、『境界線機関』が厄介だとしても、『破滅の創世』様が示した悲憤の神命。それは絶対に成し遂げなきゃならないことだから」

アルリット達はその為に動いている。
そう――目的はたった一つだけ。
遥か彼方より、『破滅の創世』の配下達の望みはそれだけだった。
だからこそ、大願とも呼べるその本懐を遂げるために一族の上層部をも利用しただけに過ぎないのだ。

「『破滅の創世』様をお救いするために、滅ぼすべきなのは此ノ里家の者。そして――」

レンは改めて、誓いを宣言する。

「……此ノ里結愛さん。これ以上、『破滅の創世』様に関わらせるのは危険ですね」

揺れるのは憂う瞳。それは剥き出しの悲哀を帯びているようだった。

「あの人間は、『破滅の創世』様に害を為す存在です」

結愛が、奏多の――『破滅の創世』の導き手になっている。
その存在を根絶やしにすることは、『破滅の創世』を救える唯一の方法であるというように――。
そう告げるレンは明確なる殺意を結愛達に向けていた。