「『破滅の創世』の配下達の狙いは奏多様。他の『破滅の創世』の配下達が襲ってこないとは限らないわ」

観月は遠くから響いてくる瓦礫撤去作業の音に緊張を走らせる。
レン達は今、この地に踏み込むことはできない。
だが、他の『破滅の創世』の配下達は別だ。
援軍に来た者達が基地本部の防衛に回っている。
とはいえ、あくまでこれは超常の領域にある『破滅の創世』の配下への威嚇程度。
倒すを確約するものではなく、どれほど妨げられるのかも未知数。

「一族の上層部はこの状況をどうするのかしら……?」

そう口火を切った観月は懸念を眸に湛えたままに重ねて問いかける。

「このまま傍観に徹するつもりなのかしら?」
「いや、そんなわけねぇだろう。この状況になることを予め、推測していた、と考えるべきだ」

状況を踏まえた慧はそう判断する。一族の上層部の矜持。その悪辣なやり方を紐解けば、全てが合致したからだ。

「だからこそ、前もって、奏多と接触を図り、『破滅の創世』様の記憶の再封印を施したんだろうな。『破滅の創世』の配下達が、『破滅の創世』様の記憶のカードを用いてもさ。記憶を再封印されたことで、奏多が『破滅の創世』様の記憶を完全に取り戻すことはなかった」
「そうね。たとえ、奏多様が一時的に神としての記憶を取り戻しても、妹を始め、懇意を寄せている者が近くにいれば、周囲に危害を加える可能性は低いわ」

慧の説明に、透明感のある赤に近い長い髪をなびかせた観月は納得する。

「ああ。たとえ、『破滅の創世』様の意思を取り戻したとしても、奏多が周囲に危害を加える可能性は低い」

如何に不明瞭な状況でも、答えはそれだけで事足りた。

「『思い出』という名の保険があるもんな。それに記憶の二重封印を施したことといい、再び、奏多の神としての記憶を封印する力が弱まってきても、記憶を改めて封印する手立てを考えている……そんな節も上層部にはあるからな」

もし、その言葉が真実だというならば、これから起こるのは最悪だ。

「一族の上層部は予め、この襲撃を見越していたんだろうな」

今なら分かる。これが最適解だと思ったからこそ、一族の上層部は即急に奏多のもとに赴き、記憶の再封印を施したのだ。
この世の悪意を凝集したような一族の上層部のやり方に、慧だけではなく、観月も激しい嫌悪を覚えたのは間違いない。

「記憶の二重封印……。そして――」

先程の出来事を思い返し、奏多は眸に戸惑いの色を乗せた。
先程の戦いで、レンが口にした言葉を思い出す。