痛手を受けたのは『境界線機関』だけではない。
一族の上層部も、内密者を利用されたことで痛手を負っただろう。
ただ、生き残らなくてはならないという使命感で突き動かされた足は、しかし、根源的な死の恐怖を思い返し、生き延びた者達から力を奪い去る。
立てない、今はきっと暫くは……。

「奏多。『破滅の創世』の配下達が去った後も、しばらくこの地から離れるなよ。そうすれば、『破滅の創世』の配下達はその間、手を出せねえからな」

今はそう願うしかない。
この世界が、どのように進んでいくのか――未来を決めるのは奏多達なのだから。

「とはいえ、被害は相当だな。まぁ、今はここを仮の拠点にしようぜ」
「そうだな」

慧と司はアルリット達が去った夜空を仰ぐ。
生き延びさえすれば、再び打ち合う機会は巡ってくる。
今は無理をせずに安全を優先しようと告げるものであった。

「奏多、瓦礫を撤去する。結愛と一緒に手伝ってくれ」
「分かった。慧にーさん」
「はい、任せてください!」

奏多と結愛は即座に打開に動くべく、慧達の援護をしていった。
今の自分がすべきことは、この地を元に戻すことなのだから。

「司、これからどうする?」
「まずは避難所に行くつもりだ。そこには奏多様のご両親、他の一族の者達もいるからな」

慧の疑問に、周囲を警戒していた司は剣呑に返す。

「父さんと母さん、無事だよな」
「心配です……」

奏多と結愛の気がかりは両親の安否だ。
スマートフォンで連絡を取りたくても、戦いが激しくてその余裕がない状態だったのだ。

「あっ……奏多くん、お父さんとお母さん達は無事みたいです。メールが届きました」

それが新鮮なのか、結愛はくっーと胸が弾ける思いを噛みしめる。

「んもぉー、今まで大変でしたよ……。お父さんとお母さんに連絡を取りたくても、できなかったのは困りものです」
「それだけ大変な事態だったんだろ」

結愛は一度だけ目を伏せ、そしてまた奏多をまっすぐに見つめた。

「私にとって、奏多くんは奏多くんです。だから、他の神様や『破滅の創世』様の配下さん達、そして一族の上層部さん達には奏多くんを渡しませんよ」

あの苛烈な戦いの後も、確かに今こうして間違いなく奏多は『結愛の幼なじみ』としてこの世界に存在している。
その事実は途方もなく、結愛の心を温めた。

「えへへ……」

結愛の目線が隣の奏多へと注がれる。

「奏多くん。さっそく、お父さんとお母さんをお迎えしましょう。お父さんとお母さんはきっと、奏多くんのお父さんとお母さんと一緒にこちらに向かっているはずです」
「そうだな」

様々な思いが過りつつも、奏多と結愛は動き出した。