「ですが――」
「なっ……?」

レンは奏多の前で膝をつく。それはさながら騎士の示す臣従の礼のようだった。

「『破滅の創世』様、必ずや次こそは一族の者の手からお救いいたします」

レンが発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。

「『破滅の創世』様の記憶はいずれお戻りになられます。そして、アルリットが強奪した一族の上層部の人間の能力は、必ずや『破滅の創世』様をお救いするための一助となるはずです。そのことを決してお忘れなく」

一見すれば非常に温和なようにも感じるが、レンの胸中には一族の者への形容しがたい怒りがある。
殺意の一言で説明できないほど、その感情は深く深く渦巻いていたから。

「この世界が滅ぶ。だから、何だというのでしょうか。全ては『破滅の創世』様だけで充分です……。私達にとって、それ以外の者はいてもいなくても関係ない」

レンの信の行く果てに、司達の想いは相容れない。

「願わくは次にお会いする時は、『破滅の創世』様の神のご意志が戻ることを――」

『破滅の創世』の配下達は、『破滅の創世』の存在とともに在る。
死、消滅、終焉……。
形容しがたい『終わり』の気配とともに、だ。

「我が主、次こそは必ず……!」

かっての『破滅の創世』の姿が、リディアの脳裏をよぎる。
リディアにとっての正義とは即ち『破滅の創世』の言葉の完遂である。
その想いを、何時の日か結実させることだけを己に誓って。

「神よ、しばしお待ちを……」

ヒュムノスは奏多の姿を――今の『破滅の創世』の姿をその眸に焼きつけた。
神命の定めを受けて生を受けた『破滅の創世』の配下達にとって、『破滅の創世』は絶対者だ。
それと同時に何を引き換えにしても守り抜きたい存在だった。

「『破滅の創世』様、待っていてね。あたし達、『破滅の創世』様のために必ず記憶を取り戻す方法を手に入れるよ」

アルリットは『破滅の創世』の言葉の完遂のためにただ、狂おしく誓う。
同時にそれは彼女達、『破滅の創世』の配下達が不退転の反撃を示す最大の難所であることを意味している。

「……他の神様も『破滅の創世』様の帰りを待っているよ。帰ってきてほしいって……」

神の御威光の下。
奏多には決して届かなかった声だけが、アルリットの胸の中で反響していた。





「何とか……なったか……」

それはただ事実を述べただけ。だからこそ、余計に司は自身の置かれた状況に打ちのめされる。
激しい戦いだった。
どの瞬間に命を落としてもおかしくはなかった。