「今、わたし達が遂行することは『破滅の創世』様を拠点にお連れすることだ」

リディアが打突したその瞬間、空間が裂けた。

「愚かなものだ。わたし達を止められると本気で思っているとは」
「ケイ……。今度は確実に消滅させるから」

そう告げるリディアとアルリットは明確なる殺意を慧達に向けていた。
恐るべきは『破滅の創世』の配下の者。この場にいる慧達が相手をするには、あまりにも圧倒的すぎた。

「私達がこの場に留まれる時間はあとわずか。早急に対応する必要がありそうです。『破滅の創世』様、ご無礼をお許しください」
「――っ」

レンは手をかざすと、決意を込めた声でそう告げた。
奏多がいる空間に光が満ちていく。
レンはこの行動を持ってして、流れを取り返すつもりだろう。

「分かっていないな」

――だが、そうはいかないと司が素早く動いた。
思わぬ断言に、レンは顔色を変える。

「まだ、何か手立てでも?」

その渦巻く疑問すら、司は予測していたように不敵な笑みを浮かべた。

「言ったはずだ。おまえ達はどう足掻いても、奏多様をお連れすることはできないと」

司が神獣の軍勢を斬り裂く軌道で振るったその重力波は極大に膨れ上がり――それは絶大な威力として示された。
ともに立つ味方には奇跡を、立ちふさがる敵には破滅をもたらす、重力操作能力の本領発揮だった。
そこに神獣の軍勢が迫る。だが、司を穿つことはできなかった。

「俺達がここで食い止めるからだ」

司は感情を交えず、ただ事実だけを口にする。

「もう……厄介な攻撃だね!」

戦闘機は対空レーザーミサイルで攻撃し、高速で飛行していたアルリットの動きを妨げた。
奏多を拠点に連れていくことが次第に困難になりつつある時。
上空から次々と小型、軽量化した戦闘機がリディア達に迫る。

「理解できないな。この程度でわたし達を食い止められると思っているとは。人の行動は理解に苦しむ……くっ!」
「……っ」

だが、戦闘機の動きはリディアとヒュムノスの想像とは一線を画していた。
援軍に来た戦闘機は、単なる空対空戦闘能力に長けた軍用機ではない。
その真骨頂は対地、対空攻撃、いずれも対応できることだ。

「悪いな。たとえ、敵の実力に圧倒されてもな。俺達はこの戦いを諦める気はないぜ」

それは司が示した確かな信念だった。
悪意に晒されながらも、それでも乗り越えて進むしかない……と言うように。

「まあ、いいでしょう。『境界線機関』のリーダーの意思に免じて、この場は去ります」

随分と物腰丁寧な仕草でレンは礼をする。大仰に両の腕を広げながら。