「降り注ぐ、は……」

結愛はカードを振るう。ふわりと浮かび上がる氷の柱が彼女に膝を突くことを許さなかった。

「氷の裁き……!!」

氷塊の連射が織り成したところで、結愛は渾身の反攻を叩き込む。瞬時に氷気が爆発的な力とともに炸裂した。
カードから放たれた無数の強大な氷柱はリディアを突き立てようとするが、しかし――全てが無干渉に通り抜けていく。
圧倒的な力量差の前に為す術がない。それでも結愛は思いの丈をぶつけた。

「絶対に負けませんよ! 私は奏多くんが……『破滅の創世』様が大好きですから!」

それは今朝、校門前で奏多に伝えた大事で大切な告白。それでも想いがそのまま形になるように、結愛の心にとめどなく言葉は溢れてくる。

「って、奏多くんはもう知ってますよね。でも、言わせてください。何度言っても、この気持ちは伝えきれません。だから、何度でも繰り返します」
「結愛……」

奏多に向ける結愛のまっすぐな瞳は変わらない。(まご)うなき本音を晒しているのが窺えた。

「奏多くんを好きになるまで、お姉ちゃんや周りの人を悲しませるだけの私でした。誰かと深く関わろうなんて、思いもしませんでした」

淡い儚い過去の足音。
結愛は幼い頃、臆病者だった。観月に手を引いて貰わねば、歩き出せないほどの怖がりで。
――『不変』を望んだのは結愛の心だった。

「だけど、そんなことを忘れるくらい、奏多くんは素敵な人で、奇跡のような時間をくれて……」

涙色に染まる指先に。
この時間が永遠に続けば良いと――結愛は願いながら。
だからこそ、今のままで過ごすわけにはいかない想いがある。

「もしワガママが許されるなら、私は奏多くんと一緒にいたいです。奏多くんのことがずっとずっと大好きですから!」

永遠に枯れることのない想いを込めて。
きっと、この一瞬は神に望まれない恋をした結愛にとって救いだった。
しかし――

「馬鹿な、あり得ない!」

驚きと戸惑いを滲ませた声で、リディアは結愛の決意を切り捨てた。

「一族の者は『破滅の創世』様に目を付けて、今も私欲のために利用しようとしている愚か者だ」

これから何をしようと一族の者の罪が消えるわけではない。
『破滅の創世』の配下であるリディア達が決して許さないことが彼らの罪の証明となる。

「ふざけるな! 人間が……ましてや一族の者が『破滅の創世』様にそのような感情を抱くなど――」
「ふざけていませんよ! 明日、今日の奏多くんに逢えなくても、私は明日も奏多くんに恋をします! 怖いですけど……すごく不安ですけど……もう逃げません!」

リディアが嫌悪を催しても、結愛は真っ向から向き合う。
最後まで自分らしく在るために――結愛は今を精一杯駆け抜ける。
それは結愛なりの矜持だった。