「奏多……」

慧はそう誓言した奏多の姿をまぶしそうに見つめる。
現状に留まるだけでは気づけなかった。
夢の中で同じ日を繰り返すことしかしなかったから前に進めなかった。
明日を願う、それだけで前を歩いていける。
そう感じさせてくれるような奏多の陽だまりの笑顔。
その笑顔は……どこまでも弟とそっくりだった。

「はい、私も信じますよ。『境界線機関』の皆さんの援軍を」

結愛はありったけの勇気を振り絞って応えた。
そう――奏多と歩む未来を夢想しているから。

「私はこの絶望の状況を乗り越えて、ずっと奏多くんの傍にいたいですから」

人間と神を阻む壁はあまりにも高く硬い。
それでも奏多と歩む未来が見たいから。その幸せが欲しい。
それがいつになるか分からなくても、遠い遠い先の話であっても。
共に進むことくらいは出来るのかもしれないと結愛は信じて。

「もちろん、私も信じるわ」

そう言った観月の言葉には決意が込められている。
『破滅の創世』の配下の者達を時間まで凌げる確証はあるし、援軍を求めることがこの先のメリットになるのは確かだ。
ただ、その根本にはどうしようもない感情がある。大切な感情が――。

「絶望の先には……必ず明るい未来があると信じているから!」

観月は一族の上層部に逆らうことができない理由があった。
それでも未来へ紡ぐ道を切り開くために、一族の上層部の束縛から抜け出したのだ。
しかし――ヒュムノスは観月達の想いを厭わず、断罪する。

「人の子よ。神は真実、正しい存在だ。神の行うことを疑うことは罪だ」
「『破滅の創世』の意志だって変わることはあるはずだ!」

奏多の意見に、ヒュムノスの雰囲気が変わる。揺れるのは憂う瞳。それは剥き出しの悲哀を帯びているようだった。

「神よ、この世界は最も神を冒涜していた。故に滅ぼさなくてはならない。神のご意志を完遂するために」

その存在を根絶やしにすることは、『破滅の創世』を救える唯一の方法であるというように――。

「そんなことない! この世界は希望に満ちた世界だ!」
「……奏多くん」

奏多は不撓不屈の意思を示す。
結愛達を守るために、身体を張って前に出る。

「なあ、結愛」

その姿を目の当たりして、結愛は喜びを噛みしめるように声に出す。

「はい。世界は残酷な時もありますね。どうしようもなく絶望して……悲しくて泣いちゃう時もあります。でも、それと同じくらい……世界は優しさと温かさに満ちています」

絶望に苛まれた日々。一つも犠牲が無かったなんて、そんなことは決してない。
けれど、そこには多くの人々の覚悟があった。