その声色が降り注いできたのは、真に戯れであったが故か。
それとも――何か別の思惑があってのことか。
その意図をレン達が掴むより早く、戦場は纏う空気を変える。

「おまえ達はどう足掻いても、奏多様をお連れすることはできない」
「なっ!」

舞い降りてきたのは希望の光。
レンを斬り裂く軌道で振るったその重力波は極大に膨れ上がり――それは絶大な威力として示される。
だが、重力波は周囲を巻き添えにしつつも、レンには無干渉に通り抜けていく。
しかし、その行為によって、レンが行おうとしていたことは不発に終わる。
空から降り立ったのは『境界線機関』のリーダーである司だった。

「『境界線機関』のリーダー。何故、ここに?」
「この場にいた『境界線機関』の仲間が教えてくれたんだよ。奏多様に危険が迫っているってことを」

それはただ事実を述べただけ。だからこそ、余計にレンは自身の置かれた状況に打ちのめされる。
レンの攻撃によって、意識を失うその前。
『境界線機関』の者の一人が操作していた機械は、司達に救難信号を知らせる発信器だったのだ。

「あれは……?」
「ほええ、すごいです。皆さんの総攻撃で神獣さん達が一気にぶっ飛びましたよ!」

奏多と結愛が見つめた先には、物々しい戦車が戦場に雪崩れ込んできていた。
突然の闖入(ちんにゅう)者(しゃ)達によって、戦場は荒れる。

「奏多様を守り抜く! ここで何としても食い止めるぞ!」

司が再び、神獣の軍勢を斬り裂く軌道で振るったその重力波は極大に膨れ上がり――それは絶大な威力として示された。
ともに立つ味方には奇跡を、立ちふさがる敵には破滅をもたらす、重力操作能力の本領発揮だった。

世界の未来を担う組織『境界線機関』。
表向き、一族の者達とは協力関係になっている組織。
猛者ぞろいである彼らの存在はこの世界の人々の光明になっていた。

そこに神獣の軍勢が迫る。だが、司を穿つことはできなかった。

「分かっていないな。おまえ達はどう足掻いてもこの先を進むことはできない」

司は感情を交えず、ただ事実だけを口にする。
神獣の軍勢の怒濤の如く迫る衝撃に対抗するように、自衛隊の戦車部隊が大地を抉り、けれど果敢に砲弾を叩きつけたからだ。

「絶対に奏多様には近づけさせるな!」

敵陣を穿つ猛攻。戦車部隊は次々と神獣を撃破していく。
しかし、操られている一族の上層部の内密者達と神獣の軍勢の連携攻撃は迫り来る。
軍勢の行く先、防衛戦に回っていた『境界線機関』の者達は必死の攻防を繰り広げていた。