奏多の記憶を再封印されたことで、奏多が『破滅の創世』としての記憶を、この場で完全に取り戻すことはない。
だが、記憶を再封印したと思われる此ノ里家の者達を全て根絶やしにするにはまだ、情報が少なすぎた。

「……分かりました」

奏多の意思を再確認したレンが深刻な面持ちで告げる。
苦渋に満ちたその顔からは、その奥にある感情の機敏までは読みきれない。

「本来なら、『破滅の創世』様のご意志でお戻りになられることが理想でしたが……仕方ありません」

それはただ事実を述べただけ。
だからこそ、余計にレンは今の奏多の――『破滅の創世』の置かれた状況に打ちのめされていた。

奏多と結愛の温かな交流。
だからこそ、レンの胸を打つのはあの日の悲劇。
ここはそこへと通じる道だと痛いほどに思い出す。

「『破滅の創世』様。『破滅の創世』様の許可を頂くこともなく、この場にいる者達をお連れすることをお許しください」
「なっ……!」

警戒の表情を浮かべた奏多に対し、レンは恭しく礼をした後、小さく手を振りかざした。

「――っ」

操られている一族の上層部の内密者達に対抗していた『境界線機関』の者達。
その一振り。それだけで彼らは一斉に声すらなく崩れ落ちる。
だが、意識を失うその前に、『境界線機関』の者の一人が何らかの機械を操作していたことに、レンは気づいていなかった。

「『破滅の創世』様、必ずや一族の呪いからお救いいたします」

レンが発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。

そう――もうすぐで手が届くのだ。
『破滅の創世』の配下達にとって、唯一無二の願い。
神として生きたい。
それを奏多が選ぶだけで――。

『破滅の創世』が示した神命。それは絶対に成し遂げなくてはならない。
遥か彼方より、望みはたった一つだけだった――。

『破滅の創世』の配下達は主が御座す世界を正そうとする。その御心に応えるべく献身していた。
それはこのまま『破滅の創世』を人という器に封じ込め続け、神の力を自らの目的に利用するという一族の上層部の悲願とは相反するものだった。
しかし、今、この場には奏多にとって大切な存在である結愛がいる。
この状況を変革させる手段を用いようとして、着々と準備を整えていたレンにとっては望ましくない状況だった。

「早急に対応する必要がありそうです。『破滅の創世』様、ご無礼をお許しください」
「――っ」

レンは手をかざすと、決意を込めた声でそう告げた。
奏多達がいる空間に光が満ちていく。
レンはこの行動を持ってして、流れを取り返すつもりだろう。

「分かっていないな」

――だが、そうはさせないと、『彼』は素早く動いていた。