聖花の能力。アルリットが強奪した相手の能力をコピーすることのできるそれは、この状況下でも絶対的な強さを発揮している。

どうしたらこの状況を改善できるんだ……。

包囲されて逃げ場がない状態。
しかも、奏多の思考の海に聞こえてくるのは、神獣の軍勢が迫る音だ。
余韻に浸るには程遠いと、急ぐように近づいて来る。

「それに……」

奏多に生じたのは、胸が軋むような悲しさだった。
カードを用いたことで、奏多が『破滅の創世』の記憶を取り戻すことができない理由が判明している。
その事実が発覚したことで、今度は恐らく、結愛達――此ノ里家の者達が狙われるはずだ。
迫り来る『境界線機関』の者達の魔の手が奏多に迫った時――。

「悪いが、奏多も結愛もおまえらに渡すつもりはないさ。ここで食い止めさせてもらうぜ!」

そこに慧の銃口から煌めく陽光を斬り裂くように、乾いた音を立てて迫撃砲が放たれる。
七発ほどの弾頭が放物線を描き、すぐに爆音が轟いた。
奏多に迫り寄っていた『境界線機関』の者達が怯む。
だが、肝心のレン達は弾が命中する前に全て塵のように消えていった。

「愚かですね。このような攻撃で私達を倒せると思っているとは」
「もちろん、倒すことが目的でないさ。ここで食い止めることだ!」

レンが事実を述べても、慧は真っ向から向き合う。

「奏多、ここは任せな!」
「慧にーさん……!」

慧は奏多が結愛達を救助する猶予を作るようにレン達に向けて発砲した。
弾は寸分違わず、レン達に命中するが、すぐに塵のように消えていく。
『境界線機関』の者達と操られている一族の上層部の内密者達。
二つの部隊に分かれた『境界線機関』の者達は、既に混乱の最中にある。

「怯むな、突撃!」

だが、それでも『境界線機関』の者達は、操られている一族の上層部の内密者達を止めるために次々に突撃を敢行する。

「無意味です」

そう断じたレンの瞳に殺気が宿る。
『破滅の創世』の配下達にとって、一族の者達は不倶戴天の天敵である。神敵であると。

「それでも止めるさ。たとえ、それが無意味なものだとしても……」
「これ以上、進ませないわ!」

決定打に欠ける連撃。
それでも慧は怯むことなく、観月と連携して次の攻撃に移った。
絶え間ない攻撃の応酬。だが、弾は全て塵のように消えていく。
しかし、慧達の猛撃を前にして、操られている一族の上層部の内密者達の陣形が乱れる。

「今なら、奏多様と引き離せる!」

僅かにできた隙。
それに即座に反応したのは観月だった。

『お姉ちゃん、好きな人ができました。奏多くんです』

花が咲き零れるような結愛の笑顔。
そう――観月は知っている。
この世界の未来は人と、人の想いの行く末の先にあることを――。