だけど、どうしたらこの状況を改善できるんだ……。

奏多の思考の海に聞こえてくるのは、神獣の軍勢が迫る音だ。
余韻に浸るには程遠いと、急ぐように近づいて来る。

「悪いが、奏多も結愛もおまえらに渡すつもりはないさ。ここで食い止めさせてもらうぜ!」

そこに慧の銃口から煌めく陽光を斬り裂くように、乾いた音を立てて迫撃砲が放たれる。
七発ほどの弾頭が放物線を描き、すぐに爆音が轟いた。
絶え間ない攻撃の応酬を前にして、神獣達は怯む。
だが、肝心のレン達は弾が命中する前に全て塵のように消えていった。
それでも慧達の猛攻が苛烈さを増していく。

「行くぜ、観月。俺達が前に突き進むためにも……力を貸してくれ!」

慧は強い瞳で前を見据える。
それは深い絶望に塗(まみ)れながらも前に進む決意を湛えた眸だった。
何一つ連中の思いどおりなど、させてやるものかと。

「当然ね」

他に言葉は不要とばかりに、観月は優しい表情を浮かべていた。
二人の誓いはたった一つ。
奏多と結愛を護るために、この状況を打開することだ。

「『破滅の創世』様……」

しかし、レンは慧達の屈指の妨害よりも、奏多の意向を確かめたいと願っていた。

「……今の『破滅の創世』様は記憶を奪われた影響で、一族の者に加担させられております。あの日、一族の上層部が用いた卑劣な手段によって僅かにできた隙、その隙を突かれ、『破滅の創世』様は記憶を奪われてしまったのです」
「……っ」

そう吐露したレンはただ一心に奏多を見つめる。
――胸に抱く哀愁にも似た感情を瞳に宿しながら。

「どうか思い出してください。一族の上層部の愚行を。そして、一族の者達への憎悪を」

かって三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』が記憶を封じられ、ただの人間に成り果てている。
かっての『破滅の創世』の姿が、レンの脳裏を掠めた。

「私は『破滅の創世』様の無念を晴らしたいのです」
「あたしもそれは同じ」

レンの宣誓に呼応するように、アルリットは一族打倒を掲げた。

「『破滅の創世』様……」

アルリットは改めて、酷な現実に心を痛める。

「……辛いね」
「……っ」

そう吐露したアルリットの瞳と奏多の瞳が重なる。
その瞬間、奏多の胸が苦しくて息苦しくなる。
その感情はあの時、奏多の中で湧き上がった想いだったからだ。