「何故なら、そうなる予感があるのです」

そう――予感があるから。
あの日、聖なる演奏を聞いた時、気づいたのだ。
そして、『境界線機関』の基地本部の出来事の後で、奏多が改めて、あの時の約束を伝えてくれたことがその予感を裏付けていた。
『破滅の創世』の記憶がある時の奏多も『奏多』だと。
奏多と一緒なら自身が見たい景色を見つけ、その場所へと走っていけると信じていた。

「ほらほら、私の予感は当たるんです。だから、奏多くん、大丈夫です!」
「そうだったな」

結愛の素直な物言いに、奏多は思わず苦笑する。
『境界線機関』の基地本部の入口にきた時よりもぴんと伸びた背筋も、まっすぐな瞳に映された希望も。
なによりも、それら全てがこれより先を進むことを決意した彼女の覚悟の表れのようだった。
だからこそ、この戦いを投げ捨てることなどできないとばかりに、結愛は思いの丈をぶつける。

「絶対に負けませんよ! 私は奏多くんが……『破滅の創世』様が大好きですから!」
「結愛、敵に近づきすぎないようにね」

観月は警告しつつも、ありったけの力をカードへと籠めた。

「結愛、カードの力を同時に放って撹乱させるわよ!」
「はい、お姉ちゃん、ナイスです! グッジョブです!」

観月の提案に、結愛は表情を喜色に染める。
導くのは起死回生の一手。
観月と結愛は並び立つと、カードを操り、約定を導き出す。

「降り注ぐは星の裁き……!」

その刹那、立ちはだかるレン達へ無数の強大な岩が流星のごとく降り注ぐ。
観月が振るうカードに宿る力の真骨頂だ。

「行きますよ! 降り注ぐは氷の裁き……!」

さらに氷塊の連射が織り成したところで、結愛は渾身の猛攻を叩き込む。瞬時に氷気が爆発的な力とともに炸裂した。
カードから放たれた無数の強大な岩と氷柱は混ざり合ってレン達を突き立てようとするが、――全てが無干渉に通り抜けていく。

「無駄ですね」
「無駄じゃないですよ! 『破滅の創世』様の配下さん達の意識をこちらに向けさせることに成功しましたから!」

レンが事実を述べても、結愛は真っ向から向き合う。

「それに、この場にいるのは私達だけじゃないですから!」
「ああ。無駄なら、それに対応するまでだ」

奏多は不可視のピアノの鍵盤のようなものを宙に顕現させると軽やかに弾き始めた。
研ぎ澄まされた表情で迅速に、かつ的確に鍵盤を弾いていく。
赤い光からなる音色の猛撃を次々と叩き込む。それは治癒の反転、その彼なりの極致は迫り来る神獣の群れをたじろがせた。