「俺にとって、結愛達はかけがえのない存在だ」

だが、『破滅の創世』の記憶の再封印が施されたその時――。
結愛から聞いた自身の身に起きた現象と発した言葉は、今も奏多に重くのしかかっている。
奏多は神としての意思ではなく、最後まで自分の意思を貫きたいと願っている。
それでも心のどこかで、それを否定している自分がいることに気づかされた。

「人間として生きたい。生きたくない。どちらもきっと俺の意思だ」

あまりに複雑すぎる想いに苛まれて、奏多は表情を曇らせる。

神の魂の具現として生を受けたこと。

幼い頃、明かされたその真実は驚愕というより残酷だったと感じた。
尋常ならざる力を持つことは同時に尋常ならぬ運命を背負うことになるのだと、奏多は身を持って知ってしまったから。

奏多の進む明日。奏多が生きる未来。

そこに奏多の意思があるとしても、それは『破滅の創世』の意思じゃない。
だからこそ、二つに切り離された意思は、一つだった頃に戻ろうとしている。

「それでも、この相克した二つの意思にも救いはあるはずだ」

二つの相反する意思。
それは嘆き、悲しみ、悲鳴だけの意思なんかでは――決してないのだと。

「だから、俺はこのまま、人間として……そして神として生きたい」

人間として行く先でも、神に戻る先でもない。ただ、覚悟だけがそこにある。

「『破滅の創世』様……」

迷いなく、力強く放たれた奏多の言葉に、レンの瞳が細められる。
狂気の中に憐れみを交えて。

「人間として生きたことはお忘れください。神であるあなた様に人の心など、不要なものです」
「人の心……」

その言葉を引き金に、あの日の記憶の断片が奏多に一つの真実を呼び起こす。

『人の心なんて知らなければよかった。知りたくなんてなかった』

音楽室に無機質な声が響く。
知らない記憶。なのに、どうしようもなく現実味を帯びた感覚がある。
それは過去の奏多が零した確かな想いの吐露であった。

――神である『破滅の創世』にとってはただ困惑するしかないその『感情』。
しかし、奏多にとっては大切な人達と紡いだ大事な『感情』だ。

神と人の相違。だからこそ――

「『破滅の創世』様のご意志が戻れば、人の心など、不要なものとして切り捨てることができるでしょう」
「……っ」

その言葉の端々に戦慄を覚えることすら忘れて。
奏多は目の前のレンに、ただただ意識を奪われ続けている。
レンは一つも嘘は吐いていない。全て明白な事実なのだろう。それでも――