「『破滅の創世』様。アルリットが強奪した一族の上層部の人間の能力は、必ずや今後も『破滅の創世』様をお救いするための一助となるはずです」

一見すれば非常に温和なようにも感じるが、レンの胸中には一族の者への形容しがたい怒りがある。
殺意の一言で説明できないほど、その感情は深く深く渦巻いていたから。

「この世界が滅ぶ。だから、何だというのでしょうか。全ては『破滅の創世』様だけで充分です……。私達にとって、それ以外の者はいてもいなくても関係ない」

レンの信の行く果てに、慧達の想いは相容れない。

「願わくはこの場で、『破滅の創世』様の神のご意志が戻ることを願っております」

『破滅の創世』の配下達は、『破滅の創世』の存在とともに在る。
死、消滅、終焉……。
形容しがたい『終わり』の気配とともに、だ。

「『破滅の創世』様。どうか、記憶を取り戻してください。一族の者は全て、『破滅の創世』様に目を付けて、私欲のために利用しようとしている愚か者です」

最強の力を持つとされる神『破滅の創世』を人という器に封じ込め、神の力を自らの目的に利用する。
その一族の行為は『破滅の創世』のみではなく、他の神全てに対しての裏切りだ。
『破滅の創世』の配下であるレン達にとって、決して看過できない行為だった。

「そんなこと――」
「……今の『破滅の創世』様は記憶を奪われて、一族の者に加担させられております。だからこそ、私達の言葉に戸惑われているのですね」

レンは奏多に――『破滅の創世』に忠誠を誓うように膝をつく。
それはさながら騎士の示す臣従の礼のようだった。

「……幸い、アルリットとリディアによって、『破滅の創世』様の記憶のカードは確保できています。後は『破滅の創世』様に、このカードを使用することができれば……」

レンはあくまでも冷静に『破滅の創世』の記憶のカードを差し出す。

「カード……」

奏多に生じたのは、胸が軋むような悲しさだけだった。
もし、この場で『破滅の創世』の記憶のカードを用いたとしても、記憶を再封印されたことで、奏多が『破滅の創世』の記憶を完全に取り戻すことはない。
しかし、それは言い換えれば、その事実が発覚した瞬間、今度は結愛達――此ノ里家の者達が狙われることを意味していた。