「奏多、結愛、ここは任せな!」
「慧にーさん……!」

慧は奏多達がこの場から離脱する猶予を作るようにアルリットに向けて発砲した。
弾は寸分違わず、アルリット達に命中するが、すぐに塵のように消えていく。

「結愛、今のうちにこの場から離れよう!」
「はい、奏多くん!」

幾度も生じる猛撃。奏多は結愛とともに、この場から離脱するために力を振り絞っていた。
とはいえ、この場にいる『境界線機関』の者達の半数――『境界線機関』を監視する一族の上層部の内密者達は、レン達の手駒にされている。
彼ら全員の狙いは、どこまでいっても『破滅の創世』である奏多。
敢えて、火中の栗である慧達を拾いにはいかない狡猾さを具備していた。

「また、慧にーさん達の攻撃を無効化したのか……?」
「ほええ、最悪です。皆さんの総攻撃が効いていないですよ!」

奏多と結愛がじわじわと押し込まれていく中、一族の上層部の内密者達の連携攻撃は徐々に苛烈さを増していく。
レン達がその気になれば、彼らを利用して同士討ちをさせることも可能だろう。

「厄介極まりねえな」

流石にそう簡単には通してくれないかと、慧は思考を巡らせた。

静寂が満ちた。

一族の上層部にとって、最大の誤算は『破滅の創世』の配下達の存在だった。
彼らさえいなければと思うことは幾度も起こり、そして今もまた起ころうとしている。
『境界線機関』を監視する一族の上層部の内密者。
彼らを利用されても、戦うことを、挑むことをやめないのは、それが一族の上層部の矜恃に連なるものゆえだろう。

「まぁ、アルリットは忘却の王ヒュムノスと同じく、『破滅の創世』様の幹部の一人だからな」

ひりつく緊張が慧の首元を駆け抜けて行く。
『破滅の創世』の配下の者達の中でもひときわ常軌を逸している存在が『幹部』と呼ばれる者だ。
アルリットもまた、『蒼天の王』として、蒼穹の銘を戴く幹部の一人である。

「恐らくは、こいつもアルリットと同じ幹部だろうさ」
「……幹部が二人もいるなんて厄介ね」

観月は遠くから響いてくる破壊の音に緊張を走らせる。
『破滅の創世』の配下の力は強大だ。その上、不老不死である。何かあれば、勝敗の天秤は『破滅の創世』の配下達に傾く。
その上、今回、アルリット達が奏多の居場所を特定できたことから、この場に残った『境界線機関』の者達を予め、利用する手配を整えていたのだろう。