「まぁ、埒外な能力だな」

慧が苦々しいという顔で語った話に観月は絶句する。
混乱は治まることはなく、むしろ深まっていた。

「つまり、強奪の能力で、冬城聖花の能力が使えている……っていうこと?」
「そういうことさ。ただ、アルリットはそういった能力に長けていても、肝心の演技力の方はなさそうだな」

観月のその問いの答えに応えると、慧は新たな想いを口にする。

「つーか、強奪で能力を奪えるのか。『破滅の創世』の配下達の力はどこまでも計り知れねぇな」
「本当ね」

慧と観月は底の知れない『破滅の創世』の配下達の力に改めて畏怖した。

「うん、大正解」

銀髪と紫眼の少女がころころと嬉しそうに笑う。
純真なまでの笑顔には悪意の欠片もありはしない。
一目見ただけでは、この場に居合わせた誰もが彼女を聖花だと疑わなかっただろう。
本物の聖花が亡くなったことを知らなければ。

「ねー。あたし、真似るのは得意なの。この人間の能力と同じだね」

紫の瞳と銀色の髪が特徴的な少女。
裾を掴んでいるドレスを思わせる衣装は青や紫色の花をあしらわれている。
いまや、アルリットの見た目は聖花そのものだ。

「レン。『境界線機関』を監視する一族の上層部の内密者。彼らの能力も強奪しておけば、良かったね」
「……既に、一族の上層部の内密者は、私達の意のままになっております。しかし、彼らが持っている力は基地に潜入することに適した能力ばかり。強奪しても、この戦乱に活かすことはできないでしょう」

アルリットの明るい声音に、レンは丁重に応対する。

「今回、私達が遂行するのは、一族の者の手から『破滅の創世』様をお救いすること。アルリット、目的を履き違えないように」
「レン、分かっているよ」

レンの念押しに、アルリットは胸の内に決意を滾らせた。

「『破滅の創世』様が示した悲憤の神命。それは絶対に成し遂げなきゃならないことだから」

アルリット達はその為に動いている。
そう――目的はたった一つだけ。
遥か彼方より、『破滅の創世』の配下達の望みはそれだけだった。
だからこそ、大願とも呼べるその本懐を遂げるために一族の上層部をも利用しただけに過ぎないのだ。

「ちっ、目的はあくまでも奏多か……」
「ここまでご足労痛み入ります、『破滅の創世』様。そして、忌まわしき一族の冠位の者の方々」

慧の言葉に、随分と物腰丁寧な仕草でレンは礼をする。大仰に両の腕を広げながら。