状況に思考が追いつかない。
そもそも目の前の男性が誰なのか、奏多には分からなかった。

「なっ……?」

レンは奏多の前で膝をつく。それはさながら騎士の示す臣従の礼のようだった。

「『破滅の創世』様、必ずや一族の者の手からお救いいたします」

レンが発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。

『破滅の創世』の神命が起点となって、この世界の運命は決まっている。
『破滅の創世』の配下達にとって、『世界の命運』は流れる水そのもの。
絶対者である『破滅の創世』のなすがままでなくてはならない。
だからこそ――

「あたし達がするべきことは『破滅の創世』様の望むこと。この世界にもたらされるべきは粛清だよ」

そう断じた聖花の瞳に殺気が宿る。
神命の定めを受けて生を受けた『破滅の創世』の配下達にとって、『破滅の創世』は絶対者だ。
それと同時に何を引き換えにしても守り抜きたい存在だった。
だからこそ、『破滅の創世』の配下達にとって、一族の者達は不倶戴天の天敵である。神敵であると。

「あたし……? 粛清……?」

聖花が発した思わぬ言葉の数々に、観月は唖然とする。

「あたし、真似るのは得意なの。ねー、ケイ」
「その言葉づかい……。なるほどな」

聖花が口にした、その言葉の真意を理解した慧は得心する。

「相変わらず、『破滅の創世』様狙いで容赦ないな。姿が変えても本質は変わっていないみたいで嬉しいぜ、アルリット」
「ケイ……。今度は確実に消滅させるから」

そう告げる聖花――アルリットは明確なる殺意を慧に向けていた。

「……慧、どういうこと?」

観月が促したものの、慧はしばらく考えた様子を見せた。

「さて、どう説明したらいいものか」
「どうして、冬城聖花が生きているの?」

瞳に強い眼差しを宿した観月は慧を見つめる。

「目の前にいるのは、本物の冬城聖花じゃない。恐らく、アルリットさ」
「なっ……!」

何処か吹っ切れたような顔をして言う慧の顔を観月は凝視した。

「あの時、アルリットは冬城聖花の能力を強奪すると言っていたからな。まさか、冬城聖花の姿まで強奪できるとは思わなかったけどな」

聖花の能力。相手の能力をコピーすることのできるそれは、あらゆる面で絶対的な強さを発揮する。
さらに、コピーした能力を一時的に他者にも付与することができる。
もし、その能力を強奪できるとしたら――