「……心配するなよ、ここを凌ぐためのアテはあるぜ」
「慧にーさん……」
「……ほええ、凌ぐためのアテ?」

それはただ事実を述べただけ。
しかし、慧の言葉は、奏多と結愛には額面以上の重みがあった。

「もし『破滅の創世』の配下達が、『破滅の創世』様の記憶のカードを用いたとしてもさ。記憶を再封印されたことで、奏多が『破滅の創世』様の記憶を完全に取り戻すことはない」
「そうね。奏多様が一時的に神としての記憶を取り戻しても、妹を始め、懇意を寄せている者が近くにいれば、周囲に危害を加える可能性は低いわ」

慧の説明に、透明感のある赤に近い長い髪をなびかせた観月は納得する。

「ああ。たとえ、『破滅の創世』様の記憶のカードを用いたとしても、奏多が周囲に危害を加える可能性は低い」

如何に不明瞭な状況でも、答えはそれだけで事足りた。

「そして、『破滅の創世』の配下達はまだ、そのことを知らねぇはずだ」
「知らない……?」

確かめるようにつぶやいてから、奏多の眸が驚きの色に変わる。
違和感を感じた、といえば簡単なことだが、慧の表情には確信めいたものがあった。
ここを凌げば、勝機が見えると――

「知っていたら、まずは此ノ里家の者達を狙うはずだからさ。それに『破滅の創世』様の神としての権能の一つである神の加護を一族の上層部が有している今、『破滅の創世』の配下達は同じ地に長時間、留まることはできない」

神のごとき強制的な支配力。
一族の上層部が有しているその絶大な力は天災さえも支配し、利用することができる。
それは『破滅の創世』の配下達を同じ地に留めないようにすることも可能だ。
ならば、それまで凌げば、『破滅の創世』の配下達はこの地から去っていくだろう。

「だから、奏多。『破滅の創世』の配下達が去った後も、しばらくこの地から離れるなよ。そうすれば、『破滅の創世』の配下達はその間、手を出せねえからな」

今はそう願うしかない。
この世界が、どのように進んでいくのか――未来を決めるのは奏多達なのだから。

「奏多、敵の視線をこちらに向けさせる。結愛と一緒に援護してくれ」
「分かった。慧にーさん」
「はい、任せてください!」

奏多と結愛は即座に打開に動くべく、慧達の援護をしていった。

今の自分がすべきことは、『破滅の創世』の配下達の進軍を止めることなのだから。

圧倒的な不利、後手に回る後手、それでもこの場に残った者達は希望を捨てていない。
それぞれが抱く感情は違えど、今ここに反撃の狼煙が上がった。