「これは面白いですね」

手をかざしたレンは自身に新たな力が漲(みなぎ)っていることを感じた。

「では、アルリットから授かった復元能力、十二分に発揮しましょう」
「うん、他の能力も利用価値がありそうだし、いつでも付与するよ」

銀髪と紫眼の少女がころころと嬉しそうに笑う。
純真なまでの笑顔には悪意の欠片もありはしない。
一目見ただけでは、この場に居合わせた誰もがアルリットを聖花だと疑わなかっただろう。
本物の聖花が亡くなっていることを知らなければ。

「この人間の能力なら『破滅の創世』様の記憶のカードを何度でも復元させられるからねー」

そう、復元できる――あるいは元の状態に戻せるとでも言い換えてもいい。
その言葉の裏には『奏多の――破滅の創世』の記憶を取り戻す手立てがある』という事実だった。





アルリットとレンが、『境界線機関』の基地本部に潜入した頃。

「ふー、奏多くん。ようやく視界がひらけましたよ」

『境界線機関』の基地本部の入口付近で、結愛は視界の開放感を感じていた。

「でも、すぐに身動きが取れなくなる。何とかしないと……」
「はううっ、また、神獣さん達に包囲されちゃっています」

奏多と結愛がじわじわと押し込まれていく中、神獣の群れの連携攻撃は徐々に苛烈さを増していく。

「せめて、避難している人達が安全な場所に行くまで、ここで足止めしないと」

『破滅の創世』の配下達が放つ強大な力は広範囲だ。
流石にそう簡単には安全な場所にいけないかと、奏多は思考を巡らせた。

「奏多くん。私達は――」
「ああ、俺達はこのまま、慧にーさん達を援護しよう!」

それでも結愛は奏多と会話を交わすことで、連携の息を察し合う。

「『破滅の創世』の配下達の狙いは俺だ。逃げ場はない。なら、少しでも戦いやすい場所で迎え撃つだけだ!」

奏多はこの場から去るのではなく、『境界線機関』の基地本部の入口で迎え撃つことにした。
たとえ、『境界線機関』の基地本部から離れても、『破滅の創世』の配下達によって、すぐに位置を特定されると踏んだからだ。

「とはいえ、このままじゃ……」
「はううっ、動けなくされちゃいます」

奏多と結愛は窮地に立たされた気分で息を詰めたが、慧が意味深に人差し指を立てる。
ジェスチャーの意味は『静かに』。
そのとおり、黙った奏多達を確認すると、慧は次いで小声で囁いた。