必要なこと、というのは時と場所によって様々だ。
言葉を交わして意思を疎通する往復作業。
目的を持って、それに従事するのならば、なおさらのこと。
都合が悪ければ因果による納得を求め、都合が良ければ理解による共感を求める。

「とはいえ、どちらも大差なく、この結果が変わることもないでしょう」

先を見据えたレンはそう考えている。
潜入を果たした『境界線機関』の基地本部の戦いの余韻は、確実に地の下に消えていく。

「手応えがありませんね」
「そうだね」

レンの言葉に、アルリットは合意する。
それは、二人が『ほとんど動かずに戦闘を済ませている』ということだ。
嫌気が差すほどの実力差が横たわっている。
その上――。

「それにしても、これほど、一族の上層部の内密者がいるとは思いませんでした」

倒れ伏せた者達を見下ろして、レンは感心したように笑う。

「冬城聖花が生きていると知るや否や、こうも襲いかかってくるとは。誘き出す手間が取れました」
「罠に嵌められたのは……思い込みを利用されていたのはあたし達、一族の上層部の方だったわけとか、この人間も言ってたよね」

非常に温和なレンの声音に呼応するように、アルリットは喜ばしいとばかりに笑んでいる。

「一族の上層部はいつも、固定観念にとらわれているね」
「だからこそ、私達の付け入る隙があるというものです」

アルリットの的確な意見に、レンは恭しく礼をした。

「『破滅の創世』様が示した悲憤の神命。それは絶対に成し遂げなきゃならないことだから」

アルリット達はその為に動いている。
そう――目的はたった一つだけ。
遥か彼方より、『破滅の創世』の配下達の望みはそれだけだった。
だからこそ、大願とも呼べるその本懐を遂げるために一族の上層部をも利用しただけに過ぎないのだ。

「アルリットが強奪した一族の上層部の人間の能力は、必ずや今後も『破滅の創世』様をお救いするための一助となるはずです」
「うん、頑張ろうね」

レンの意思に、アルリットは朗らかにそう応えた。

「さてと……」

アルリットはレンに対して手をかざす。
その手から淡い光が放たれて、レンに伝播していく。

聖花の能力。相手の能力をコピーすることのできるそれは、あらゆる面で絶対的な強さを発揮する。
さらに、コピーした能力を一時的に他者にも付与することができた。
それは『破滅の創世』の配下達に対しても有効だ。