「えげつねぇなお前」
「ナイス嘉正!」
浮かない顔をしていた二人がにやりと口角を上げる。嘉正くんも不敵に笑った。
一体あの数分間で彼らに何をしたんだろう。
どうやら彼らは怒らせると一番怖い人を怒らせてしまったようだ。
気の毒だとは思うけど可哀想だとは思わない。それくらいじゃ反省しないとは思うけれどちょっとは苦しめばいいなんて思ってしまう。
「とにかく来光が話したがらないならこれ以上は詮索しないこと。帰ったらいつも通りにしてやること。いい?」
「リョーカイ」
「たく、わーったよ」
私もうん、と頷いた。
晩御飯の少し前に帰宅すると、台所で千江さんの手伝いをする来光くんの姿があった。
私たちと目が合って「あ……」と少し気まずそうに目を泳がす。
「来光今日の晩飯なにー?」
慶賀くんがその背中にのしかかる。
驚いて慶賀くんを見上げたあと一瞬泣きそうな顔をした来光くんは直ぐにいつも通りの調子で「危ないだろ!」と慶賀くんを叱りつける。
「お、なに今日トンカツ? 千江さんウスターソースある〜?」
「はぁ? トンカツは醤油でしょ」
「お前ら正気か? トンカツは塩だろ」
「貧乏くせぇ!」
教室でいつも繰り広げられている景色だ。怒りながらもどこか楽しそうな横顔にホッとする。
お前らは何!?と三人が私と嘉正くんを見た。嘉正くんと目を合わせる。
「私の家はとんかつソース、かな」
「だよね、うちも。お前らが変なんだよ」
「なんだよお前ら冒険心がねぇな!」
「ええ……」と二人して苦笑いをうかべた。