『ほら! 巫寿ちゃんも手ぇ広げて!』
訳が分からないまま志らくさんに言われた通りに両手を広げて天を仰ぐ。神楽殿のこっくりした茶色の天井をじっと見つめる。
そのまま五分無言で見つめたあと、我慢できずに「これ何ですか?」と尋ねた。
『言うたやろ? 決まった型を踏むこととが一割、気持ち二割、フィーリングが七割って』
『あ、はい……』
『これはフィーリングの稽古や。自分の中にある"鼓舞の明"を感じ取って、それを表現するための稽古』
志らくさんはすぅー、と鼻から息を吸って口から深く吐き出す。
『表現するための……?』
『そ。鼓舞の明に音楽はないやろ? だから自分の中にある鼓舞の明に刻まれたリズムが音楽になる。型は決まっててもどう表現するかは決まってない、それも巫寿ちゃん次第なわけや』
まだイマイチ理解できなくて「はぁ」と曖昧な返事をする。
『私が教えてもあんまり参考にならんて言うたんはこう言うことやねん』
あはは、と志らくさんが笑う。
『鼓舞の明に"正解"はないからな』