「自分の力量に適していない依頼は断っても良い、という決まりが神役諸法度(しんえきしょはっと)にはありますが、我々のような弱小神社に断る権利はありません」

「えっ、ないんですか?」

「ない、というのは少し語弊がありましたかね。基本的に断りません。というのも地方の社は常に資金不足で、本庁からの依頼完遂後にはかなりの額の報奨金を頂けるからです」



なんと言うか、世知辛い。

確かにお金が無いと何も出来ないのだけれど。



「あと本庁の役員に依頼お断りの電話をした時に、クソ長いため息をつかれます。"え? 断るんですか? 君たちへわざわざ頭下げて頼んでるのに、断るんですか?"というニュアンスが含まれたため息です」

「あー……」



にっこり笑って言っているはずなのに、禰宜の笑顔は黒い。

この界隈には日本神社本庁の考え方を尊重する"本庁派"と、神修の教職員やまねきの社の考え方を尊重する"神修派"がある。

二つの派閥は犬猿の仲で、何かといがみ合っているらしい。


どうやら禰宜は神修派らしい。



「……話が逸れましたね。とにかくまなびの社が本庁から階位に見合わない依頼を引き受けた際は、志らくさんに鼓舞の明を使っていただいて言霊の力を底上げして頂き任務に出かけています」



先程禰宜と宮司、志らくさんが話していたのはきっと本庁からの任務の話だったんだろう。

そしてその任務を受けたのが禰宜だから、これから志らくさんは禰宜へ鼓舞の明を使うという訳だ。