恵衣くんは納得したようにひとつ頷いて神楽殿から出ていこうとする。
堪らず千江さんに詰め寄った。
「あ、あの! 私も隅で見ていたらダメですか……!」
「へ?」
「鼓舞の明……! 志らくさんが鼓舞の明を使うところ、見ちゃダメですか!」
目を瞬かせた千江さんに、険しい顔をした恵衣くんがずんずん歩み寄ってくると私の二の腕を掴む。
「阿呆かお前は。鼓舞の明はその場にいる者の力を増幅させる力だぞ。お前がそこにいればお前もその対象者になる、その分志らく巫女の負担が増えるということだぞ」
え、と驚きの声を上げると恵衣くんは顔を顰めて息を吐く。
口に出さずとも「そんな事も知らないのか」とその表情が言っている。
「馬鹿な事言う暇があるならさっさと出ろ、邪魔になるだろ」
ほら行くぞと手を引かれたその時、「おりゃ!」という声掛け声と共に恵衣くんの脳天に手刀が落ちた。
目玉が零れ落ちそうなほど見開いた恵衣くんが弾けるように振り返る。
呆れた顔をした志らくさんが腕を組んで立っていた。
「ちょいちょい気になってたけど恵衣くんあんたモテへんやろ。女の子そない乱暴に扱ったら嫌われるで」
志らくさんの遠慮のない一言に恵衣くんは一瞬固まる。直ぐに首まで顔を真っ赤にして眉を釣り上げた。
口を開き何か言い返そうとしたようだけれど、深く深呼吸をして小さく頭を振ると不本意そうに顔をゆがめながらも黙りこくる。