志らくさんはまなびの社の本巫女でもあるけれど、一般企業で働く社会人でもある。
朝は私たちと朝拝に出たあと会社に出社し、きっちり八時間働いた後社へ帰ってくると今度は巫女としてまなびの社で奉仕がある。
何故一般企業と掛け持ちして働くのかと以前慶賀くんが尋ねて「大人の事情」とはぐらかされていた。
宣言通り五分後にはメイクを落として巫女装束に着替えた志らくさんが戻ってくる。
直ぐに夕拝が始まるのかと思ったけれど、吉祥宮司と禰宜と三人で話し込み始める。何度か頷いた志らくさんと申し訳なさそうに頭を下げた禰宜。
一体何の話をしているんだろう?
志らくさんは禰宜の背中を勢いよく叩くと、「よっしゃ!」と気合を入れて自分の両頬を手のひらで挟んだ。
いつも通りの流れで始まった夕拝。志らくさんの「浦安の舞」で今日も終わるのかと思いきや、禰宜と志らくさんを残して他の皆がぞろぞろと神楽殿を出ていく。
恵衣くんも困惑したように外へ出ていく神職さまたちの背中を見つめている。
「巫寿ちゃん、恵衣くん、これから志らくが禰宜のために鼓舞の明を使うから、外に出てもらってもええか?」
コブノメイ、こぶのめい。
────鼓舞の明。
頭の中で言葉が繋がり目を見開いた。
鼓舞の明、力を増幅させる力。もうひとつの特別な力、私の中に宿る授力。
まさか同じ力を志らくさんが持っていたなんて。