そういえばこれまで来光くんの実家の話をちゃんと聞いたことがなかった。

あまり良い関係では無いと何となく聞いていたので、それ以上追求しても良いものかと思ってずっと聞けずにいた。


まさか、まなびの社の管轄する地域に来光くんの実家があったなんて。



「えっと……」



かける言葉に迷っていると、来光くんが「気遣わなくていいよ」と肩をすくめる。



「前にも話した通り両親とは絶縁状態だし、僕の住民票ってもう薫先生の別荘の住所に変わってるんだよね。だから地元って呼ぶのもなんか妙だけど」

「そう、なんだ」

「あ、僕が京都弁じゃないのは両親が関東の人で小二までは関東にいたからね。お父さんの仕事の都合でこっちに引っ越してきて、それ以降は神修に入るまでずっと京都」



来光くんはいつも以上に早口でよく喋った。あえて言いたくないことを勢いよく喋っているように見えた。

何ともないとという顔で取り繕ってはいるけれど、きつく握った拳は隠せていない。



「……本当にもう昔の話だし、悪い思い出ばっかりだったけど、楽しいことも少しはあったんだ」



来光くんは言葉を選ぶようにしてそう呟く。

その言葉は本心のようだった。