折角だし報鼓を聞くまでは外にいようかと思ったけれど、あまりの人の多さに諦めて大人しく借りている宿舎に戻る。
3階建ての木造建築で一階は風呂やリビングなどの共用スペース、二階と三階に一人部屋が計十二部屋設けられていて、私とお兄ちゃんはバイトの間そこを借りている。
まだ22時を過ぎた頃だけれど、廊下の電気は落とされて薄暗い。部屋にいる神職のほとんどが明日に備えて早めに眠っているのだろう。
音を立てないようにそっと自分の部屋に入って、すぐに暖房とテレビをつける。
暖かい空気にほうっと息を吐きながら、歌番組を横目に巫女装束を脱ぎ部屋着に着替える。
テーブルに広げっぱなしにしていた宿題が目に入る。アルバイトが始まった数日前から一切手をつけていない。
三箇日が過ぎるまで朝から晩までアルバイトをする予定だ。それにその三日間は禄輪さんから大役を仰せつかっている。
やるなら────今しかないよなぁ……。
深く深くため息をついて、のろのろとシャーペンを手に取った。