数分前までの彼女とは違う、研ぎ澄まされた朝の社頭のような雰囲気を纏った志らくさんは足音を立てずに祭壇の前へ進むと、宮司の斜め後ろに座った。
それを確認した宮司がゆっくりと頭を下げる。すっかり気を取られていた私達も慌ててそれに習って床に手を着いた。
そのまま大祓詞の奏上が始まり、何かが起きることもなく私たちは最後の一文を諳んじた。
吉祥宮司は深くお辞儀をすると祭壇の前を離れ、権宮司の隣に座る。
祭壇の前には志らくさんだけになった。
立ち上がった志らくさんは祭壇の真ん中へ歩みを進めると、真ん中で深く頭を下げた。顔を上げると少し間をおいて巫女鈴を体の前に置き、右手で扇子を広げ顔の横にすっとあげる。
あれ、これってもしかして────。
どこからともなく流れ出した笛の音色に合わせて、志らくさんはゆったりと水の中を動くように舞う。
「これ……浦安の舞だ」
「巫寿が神楽部の皆と奉納祭で舞ったやつだよな?」
泰紀くんがこそっと耳打ちしてきて、こくりと一つ頷く。
二学期の学習成果を発表する奉納祭で、私が所属する神楽部の女子部員全員で演舞したものだ。
志らくさんの背中を見つめる。
今まで沢山の神楽舞を見てきた。2年生の瑞祥さんは学校内で一番上手いし、先生に見せてもらったお母さんの舞う映像は高校一年生の時に学校代表に選ばれた時のものだった。