神楽殿に神饌(しんせん)を用意して灯り灯す手伝いをする。神修の朝拝と同じだ。

ただ一つ違うとすれば────。



「"どうして神楽殿なんだろう?"」



後ろからそんな声が聞こえて驚いて振り返る。

眼鏡の奥の目を細めた禰宜が三方を手ににこにこ笑って私を見下ろしている。



「心を読んだわけじゃないですよ。巫寿さん、存外顔に出やすいんですね」



そんなにわかりやすい顔をしていただろうか、と少し熱くなった頬に触れる。



「仰る通りです。どうして神楽殿なのかなって。朝拝や夕拝って本殿で行うものですよね?」



神饌を並べた禰宜は私が置いた三方の向きを正して笑う。



「見ていれば分かりますよ」



やがて用意が整うと吉祥宮司以外の神職さまが祭壇から距離をとって着座する。その事も不思議に思いながら、私達も末席に並んで座った。

その時、神楽殿の入口の戸が開いてちりんと可愛らしい鈴の音色が聞こえた。みんなが振り返る。



志らくさんだった。ジャケットを脱いで巫女装束に着替え、巫女舞を奉納する際の正装である千早と梅の花が着いた髪飾りを身に付けている。

メイクも落としたのだろう。血色の良い白い肌にほんのり赤い唇。志らくさんの凛とした雰囲気が際立っている。

それにお化粧をしていなければ、いっそう志ようさんに似ている気がした。


鈴の音色は彼女が握る巫女鈴の音色だった。