数年前に訳あって社が潰れ、さらに長い間社から離れなければならなかった禄輪さんが、建物の修繕も間に合わず神主不在で長年放置されていたこの社を今年に入って再建した。
そしてこの大晦日の"年越の大祓"と呼ばれる神事が、再建されたほだかの社で初の神事になるため、終日たくさんの参拝客が訪ねていた。
「すまんな、こんなに忙しくなるとは思わなかったんだ。まだ修繕も終わってないし、親しい奴らだけ呼んで年越する予定だったんだが、どこから話が広まったのやら」
息を吐いた禄輪さんは「やれやれ」と苦笑いを浮べる。
日頃から沢山の人達に慕われている禄輪さんだ。私のクラスメイトなんて、禄輪さんの姿を見つければ地の果てまでも追いかける勢いで駆け寄っていく。
ほだかの社が再び開くとなれば、皆我先にと来るに決まっている。
ご祈祷の依頼が予定よりも多くなって禄輪さんは少し大変そうだけれど、その横顔はとても楽しげだった。
「巫寿と祝寿が来てくれて助かったよ。給料弾むって祝寿にも伝えといてくれ」
「ふふ、楽しみにしてます」
残り半分ほどのおにぎりをふた口で食べ切った禄輪さんはガシガシと私の頭を撫でると、忙しそうに社務所から出て行った。