「恵衣くんも帰省?」

「このタイミングにこの格好で帰省以外に見えるのかお前は」

「またそんな言い方する……」


会話しようとしただけじゃん、と少し唇を尖らせた。

神社実習で力を合わせて危機を乗り越えた仲なんだし、少しは前よりも仲良くなれたと思ったんだけどな。

堪らすため息をこぼす。



「……昇階位試験どうだったんだ」

「え?」


恵衣くんから話題を振られることが珍しくて思わず驚いていると、恵衣くんは分かりやすく不機嫌な顔になる。


「あ、えっと。無事合格できました」

「……あっそ」

「恵衣くんも合格したって薫先生から聞いたよ。直階三級でしょ? 本当に凄いよ、おめでとう」


別に、と呟いた恵衣くんがふいと顔を逸らす。

その耳が赤くなっていて珍しいものを見た気持ちになった。


館の中から神職さまが「最終便まもなく出発しますよ」と声を上げる。

恵衣くんがスタスタと歩き出し慌ててその背中を追いかける。その途中でふと足を止めた。

ゆっくりと振り返り、私を見下ろす大鳥居と森を見上げた。丁度一年前に見た鎮守の森の桃の花はまだ芽吹く前の蕾だった。木々が風に吹かれて心地よい音を奏でる。