大量の土砂が山肌を滑り、真下にいた人達の悲鳴が上がる。真っ黒な土が彼らに振りかかろうとしたその瞬間────我に返った。

自分の荒い息遣いに隣にいた来光くんが驚いて目を丸くする。


「巫寿ちゃん……? どうしたの?」


全身がほんのりと怠く重くなる感覚。鼓舞の明を使った時と似ているこの感じは────先見の明だ。

見えた、また見えたんだ。あれはこれから起きる未来だ。ああどうしよう。このままだとたくさんの人が犠牲になる。

あの神職さまに伝えて信じてもらえるだろうか。だったら私が先見の明を持っていることを明かして、これから土砂崩れが起きることを伝えた方が。

ガタン、と大きな音がして弾けるように振り返った。

静かに座っていた神職さまが腰を浮かせて驚いた顔でこちらを見ている。

え?と皆が不思議そうな顔をした。


「皆さん、これから私たちも応援へ向かいます! すぐに準備を!」


ほら早く!と促されて皆は訳も分からないまま外へ促された。

先頭に立ち走り出した神職さまの背中を「何事だぁ?」と怪訝な顔で追いかける。


「よく聞いてください! 山の奥でノツゴの集団が現れて、ハイキング中だった老人会の皆さんが立ち往生しています。中には転んで怪我をしている方もいます。ノツゴを避ける方法を教えますから、それを実践しながら皆さんを安全に移動させてください!」