半壊した家屋だ。もとは山小屋かなにかだったんだろう。壊れたドアがギィギィと音を立てて揺れている。
その隙間からあばら家の中が少しだけ見えた。散乱した家具が見えて、吊るされたランタンが青い光をちらちらと放っている。
この荒れ果てたあばら家で"不自然に"青く光り輝いている。もうとっくに使われなくなったであろうこのあばら家で、それはそれは不自然に。
「えっと、あの怪火を祓うだけでいいんでしょうか……?」
振り返って恐る恐る尋ねると、神職さまは眉ひとつ動かさず私を見ている。
あの、ともう一度声をかけたがやはり同じで小さく息を吐くとあばら家に向き直った。
青い火の光といえばひとつしかない。火の妖術を扱う妖が残す残穢、怪火だ。神職諸法度では見つけ次第祓うことを推奨されている残穢で、その場に残しておくと勝手に動き回り人を驚かしたり、ボヤの原因になる。
怪火には思い入れがある。なんたって私が初めて使えるようになった祝詞が、怪火を鎮める為の鎮火祝詞だからだ。
とにかくやってみよう。今の所目に見えて分かる異変はあの怪火だ。
ひとつ深く深呼吸をした。
大丈夫、授業でした通りにやればいい。
胸の前でキレのいい柏手を響かせた。