神職を辞めた?
意外な事実に目を丸くした。
だって志らくさんは言霊の力だけじゃなく、授力にも恵まれている。他の神職よりも能力だけで言えばかなり優位な立ち位置だ。
それに舞だって上手いし、神職からだけじゃなくて参拝者からも信頼は厚い。
そんな人がどうして……?
「"何で辞めたん?"て顔やな」
「あ……すみません」
「あはは、ええよ。謝ることちゃうし。ただ私は、本庁のやり方に疑問を持ってしもうただけなんよ」
本庁のやり方?
そう聞き返すと志らくさんは笑って頷き私の隣に腰を下ろした。
「空亡戦の最後、お姉がどうなったか聞いたことある?」
「あ……」
軽々しく"はい"とは言えなかった。
空亡戦については以前嘉正くんから教えてもらったので知っている。
空亡は自分の体を八つ裂きにして無数の残穢を生み出すことで消滅を逃れようとしたけれど、当時の審神者である志ようさんがそれの一部を自分の中に閉じ込めることで完全に分散仕切ってしまうのを防いだんだ。
「もしそれをお姉ではない他の誰かがやったんなら私もそれを賞賛したと思うんよ。でも私のお姉がやるんは、話が違う」
落ち着いた静かな声だけれど芯が通っている。溢れる感情を押さえ込んでいるようだった。
「なぁ、知ってる? 当時皆が何て言うてたか。"審神者さまがその命で守ってくださった。感謝せねば"って。"ありがとう審神者さま"って。本庁の役員共はまねきの社の社頭で万歳三唱したらしいわ」
扇子を握る手がぶるぶると震えている。