「おーい、学生さん来はったで」


吉祥宮司のその声で作業していた神職達がぱっと顔を上げると、そろりと立ち上がった。

紫色と浅葱色の袴姿の神職がいる。紫袴の男性は禄輪さんくらいの年齢で、眉間にぎゅっと皺を寄せて口を一文字にして私たちに頭を下げた。



「うちの権宮司や。顔は厳ついけどお笑い好きでうちのユーモア担当や。笑いのツボ浅いから、不用意に笑かさんといてや」



厳しい顔のまま頭を下げた権宮司。

えっと……それは関西風のジョークなんだろうか? どう見てもこの人がここのユーモア担当には見えないのだけれど。


よろしくお願いします、と順番に頭を下げた私たち。

権宮司がブホッと吹き出してくつくつ笑いながら席に戻る。



「今何か面白い事あった?」



慶賀くんが小声で真剣にそう尋ねてきた。

本当に分からないので首を振る。



「ほんでこっちが禰宜。皆の事はこの禰宜とあとから紹介する巫女が面倒見るからな」



権宮司よりかはひと周りほど若い男性だ。細いフレームの銀縁眼鏡をかけ、優しそうな目を糸のように細めて柔らかく笑う。


「初めまして。よろしくお願いします」自分たちのような学生にも丁寧に頭を下げた禰宜。

その瞬間、恐らく全員が「この人はいい人だ」と思ったに違いない。