「……恐らくあの女は人を化かす妖術が使える妖だ。そういう妖が口にするのは大抵人を惑わすための嘘だ」


そう言った私の手首を掴むとまた歩き出す。引っ張られるように私も歩き出した。

スタスタ歩き続ける背中を見つめた。

"人を惑わすための嘘だ。だからあまり気にするな"

そう言ったつもりなんだろうか。

だとしたら分かりにくすぎるよ。


堪らずふふと笑うと、鬼の形相で恵衣くんが振り返ったので慌てて口元を隠した。

社宅に戻ってくる頃には震えは収まってた。玄関に入る前に恵衣くんがパッと手を離す。

手首には暫く熱が残っていた。