「一体どういうつもりだ?」
「本来ならこうな事になるはずじゃなかったんやけどなぁ。"あの方"の仰る通りやったわ。ほんま面倒な子達」
顎に人差し指を当ててこてんと首を倒したその女。
「あのおデブちゃんには蠱毒を使って松山来光を殺させるつもりやったんよ。やけどあのおデブちゃん、全然そんな度胸ないんやもん」
「なんで来光くんを……」
「なんでやと思う? 椎名巫寿さん」
名前を呼ばれて目を見開いた。
どうして私の名前を。
「これから起きることぜーんぶ、あんたのせいやで? ほんま楽しみやなぁ」
私の、せい……?
弧を描く赤い唇が怖い。心臓がばくばくと大きく波打つ。
とてつもなく恐ろしいことが、すぐ側まで押し寄せているような気がする。
「今日のところはお暇しよか。結界の奥におられたら、何にもでけへんし」
ふふ、と肩を竦めた女。瞬きした次の瞬間にはもうそこにはいなかった。
咄嗟に両腕を抱きしめた。
私はあの女の人を知らない。なのに何故彼女は私の名前を知っていたの? 私のせいってなんの事? これから起こることって、一体何が起きるの?
「おい。あいつと知り合い……ではなさそうだな。とにかく戻るぞ。今の女含めて宮司に報告する」
歩き出した恵衣くんが数段昇ってピタリと足を止めた。くるりと振り返るとまた階段を降りてきて、私の前で止まった。