ああ……そうか。足を痛めて階段が登れないのか。可哀想、手伝ってあげなきゃ。手を貸してあげなきゃ。

一歩階段を降りたその時、きつく二の腕を掴まれてハッと我に返った。見上げれば険しい顔をした恵衣くんが、下にいる女性を睨みつけている。


あれ、私今何を……?


頭の奥がぼんやりしている。短い夢でも見ていた気分だ。


「しっかりしろ、化かされてるぞお前。あれは妖だ。俺らの手を借りて中へ入ろうとしたということは、鳥居の結界から弾かれる招かれざる者」


妖? 招かれざる者?

でも社は正しい鳥居さえ通れば人であろうと妖であろうと中へ入ることが出来るはず。

唯一入れないのは不浄……穢れを持つものや邪を持つものだ。

それじゃあまるで彼女が────。



「あーあ。これやから子供は嫌いなんよ」



言葉と共に笑みが消えた。能面のような無機質な表情で私達を見上げるその女性に鳥肌が立つ。


「残りはあんたらだけなんよ。あんたらとあの眼鏡の小僧だけ、気ぃ失ってすぐに運ばれて行ったから、化かしそびれてもうたんやわ」

「なるほどな。お前が三好正信に入れ知恵して、あの日神職を装って他の神職達を化かした張本人って訳か」


その問いかけには答えなかった。

けれど真っ赤な唇がまたにぃと弧を描く。


本当に、この人が。