駄目だ、来光くんは消耗しきっている。もうほとんど力が残っていない。


「クソッ、どうしたら……ッ!」


封印するための祝詞はまだ習っていない。祓詞で修祓できる相手でもない。手を離して一斉に逃げたとしても、扉一枚挟んだこの距離じゃ逃げ切れるかどうかは半々といったところだ。

応援を待つ? いいや、それじゃ私たちが持たない。二人がかりで押さえ付けていても扉はバタバタと暴れている。体力の限界もある。

やはりここで教室ごと蠱毒を封じ込めるしか道はない。来光くんがもう一度書宿の明を使えれば────。




シャン、と鈴の音が頭の奥で響いた。




邪を打ち福を招く澄み通った清白な音色────これは巫女鈴だ。

脳裏で桜の花が散った。あれは志らくさんが隠し撮りしていたお母さんが舞う映像だ。花吹雪の中を舞う姿は桜の精霊そのものだった。


ぶるりと全身が震えた。武者震いだ。

これは賭けだ。圧倒的に負ける可能性の方が高い賭けだ。だってこれまで一度だって成功したことはなかった。

でも僅かでも勝てる可能性があるとするなら、きっと残された道はこれしかない。


「……恵衣くん!」


静かに名前を呼ぶと恵衣くんが顔を歪ませながら私を見た。


「考えがあるの……! 少しの間だけここを任せていい!?」

「……ッ、分かった! やれ!」


飛ぶようにそこから離れると扉が激しくガタンッ
揺れる。歯を食いしばった恵衣くんが苦しげに呻いた。

時間が無い────もう、やるしかない。