何度も色んな人に助けられてきたこの私に、何ができるって言うの?


「何してる巫寿ッ! さっさと行けこのノロマッ!」


顔を顰めた恵衣くんがそう怒鳴った。

きつく拳を握りしめる、握りしめて、そして走った。


走って────恵衣くんの隣に立ち扉を強く抑えた。両手に激しい衝撃が伝わってきて、ギュッと唇を噛み締める。


「何やってんだよ馬鹿ッ!」


珍しく恵衣くんが慌てた声を上げた。

守ってもらうのはもう終わり、大切な人を守るために私は神修に残って強くなる道を選んだんだ。


「馬鹿でも何でもいいよ……ッ!」


何だって好きに言えばいい。

誰かがまた傷付くのを見るくらいなら、罵られようと何だろうと構わない。

クソッ、と耳元で舌打ちした恵衣くんは、顔を上げて叫んだ。


「おいお前! 来光を叩き起こせ!」

「え、え!?」

「さっさとしろ聞こえないのか!」


恵衣くんにそう凄まれて、ノブくんは担いでいた来光くんを床に下ろして激しく揺すった。

やがてゆっくりと目を開けた来光くんが、ノブくんに支えられて体を起こす。


「おい来光ッ、今すぐもう一枚書け!」


そう叫んだ恵衣くんに、来光くんが顔を顰めた。


「無茶……言うなよ。もう筆も、握れないって」

「なら気合いで書け、お前の取り柄は書宿の明くらいだろうがッ!」

「マジで……僕のこと、殺す気かよ」


来光くんが青い顔をして息を吐いた。

ゆっくりと懐に手を伸ばし袱紗を取り出す。しかしパサリと床に落とした。手が力なくだらんと垂れる。

く、と苦しそうに歯を食いしばり目を細めた。