ギィ、ギィ、ひたひた、扉の前で止まった足音が歩き始めた。

いつの間にか止めていた息を細く細くゆっくりと吐き出す。脱力しそうになって慌ててお腹に力を入れる。

腰を浮かせて私の後ろにしゃがんでいたノブくんを見た。用意して、と唇だけを動かせばこくこくと何度も頷き、来光くんを背負い直す。

恵衣くんを見た。もう窓から外は覗いていない。中腰になって扉に厳しい目を向けている。


音が止んだ。また沈黙が流れる。息が詰まる緊張感にゴクリと唾を飲んだその時、

勢いよく開けた扉が扉枠にぶつかりバンッと大きな音を立てた。驚いて身を縮める。開けたのは恵衣くんだ。開けると同時に半 一歩後ろへ飛び退いた。

ぶわりと紫暗の靄が中へ入り込んで来ると同時に、モヤの中にどす黒い赤を見た。

ひた、ひた、と足音が教室の中へ入ってくる。水を踏む音ではない。これは浴びた血が足裏に流れてそれを踏む音だ。

身体が見えた。赤に染ったそれは遠くから見たあの時よりもおぞましい。


恵衣くんがハッと息を飲んだのが聞こえた。一歩また一歩と、近づいてくる度にゆっくりと後退する。

恵衣くんはきつく口を閉じたままだ。恵衣くんの指示で外へ飛び出すことになっているのにまだ合図がない。