恵衣くんが険しい表情で御札を取って一枚を私に差し出した。慌てて受け取ってひとつ頷く。
こんなにいきなり作戦が始まるなんて。
でも嘆いている暇なんてない。
「ノブくんそっち支えて……!」
「お、おう。てか俺が担ぐ」
ノブくんも見える人だ、このただならない雰囲気を感じ取ったのか直ぐに動き出してくれた。
来光くんを背負ったのを確認し、作戦通り後ろの扉のそばにしゃがみ込み、引き手に手をかけた。
キィ、キィと木板の廊下が遠くで軋む音がする。
間違いなく真っ直ぐこちらへ向かってきている。
前の扉にいる恵衣くんを見た。落ち着いた表情で小窓から外の様子を伺っている。
大丈夫、来光くんの御札もある。恵衣くんが立てた作戦なんだ。きっと上手くいく。
急にばくばくと音を立て始めた心臓にそう言い聞かせて何度も深く息を吐いた。
ひたひたと水を踏む足音が聞こえる。近付いてきている。もう恐らく視聴覚室の前だ。
口を押えて息を殺した。来光くんの御札を胸の前で握りしめる。
ギィ、と扉の前の床が軋んで音が止んだ。耳鳴りがするほどの沈黙が流れる。耳の横に心臓があるみたいだ。背筋を汗が流れて、強く目を瞑った。
落ち着け、落ち着け……!