静かに目を閉じで深く息を吐く来光くん。

その姿をノブくんが不思議そうに見ていた。私が来光くんの特別な力のことを教えてあげるのは何だか違う気がして、黙って見守る。


「おい、ボケっとしてる暇があるのか。作戦を話すぞ」


ハッと顔を上げた。


「あの蠱毒だが……おそらく原型は餓鬼(がき)だ」


そうか、通りで見覚えがあると思ったんだ。

仏教に由来する鬼の妖、薄汚れた痩せ細った体と突き出した腹をしている。

先程見た蠱毒の姿と同じだ。


「お前は恐らくこの後ぶっ倒れるであろう眼鏡を、そいつと担いで教室後方の扉で待機してろ。俺が合図したら外に飛び出して外から扉に札を貼れ。俺は餓鬼を中に引き込んだ後に前の扉から出て札を貼る。餓鬼程度なら走ってもギリギリ振り切れる」


なるほど、餓鬼をこの被服室の中に閉じ込める気なんだ。

あれ、でも餓鬼ってたしか────。


「あの、鬼だけど……大丈夫?」


私の知る限り恵衣くんの唯一の弱点が餓鬼だったはず。小さい頃に追いかけ回されてトラウマになり、鬼は今も苦手なんだと前に話していた。

どういう反応が返ってくるかは何となく分かっていたけれど堪らずそう尋ねた私に、恵衣くんは眉を釣りあげた。


「お前に心配される筋合いはないッ! 他人に任せてヘマされるより俺が我慢する方がよっぽどマシだッ!」