「階段を使って階下に逃げることは厳しいんだな?」


もう一度そう確かめた恵衣くんに「うん」と眉をひそめ頷く。


「だったら隠れてやり過ごす? もう宮司たちも着いてる頃だよね」


そんな提案に恵衣くんが首を振った。


「隠れたところで中から鍵を閉めれる訳でもない。中へ入ってこられたら全員終わる。何でもいいから他にないのか」

「じゃあバリケードを作るとか?」

「阿保かお前。本気であのバケモンにバリケードが通用すると思ってるのか?」

「何でもいいって言ったのは恵衣だろ!?」


また言い争いになる二人に「喧嘩してる場合じゃないから!」と今日で何度目かの仲裁に入る。

本当に言い争っている場合じゃない。おそらく蠱毒はもう二階にいて間もなく私たちのいる三階へ上がってくるはずだ。

あの禰宜と権宮司も歯が立たない相手だった。私たちが対峙してまともにやり合えるとは思えない。

戦わずに勝つ、そんな方法が────。


「あの……」


恐る恐る声を出したノブくん。一斉に振り向いた私たちにギョッと身を縮める。


「閉じ込めるのは、どうや……?」


おびき寄せて、閉じ込める?


「貰いもんやけど、あれをエレベーターの中に閉じ込めとくのにこんなん貼っとったんや……また使えたりせん?」


そう言っておずおずとズボンのポッケから取り出したのは、ぐしゃぐしゃに握りつぶされた紙切れだった。