沢山の妖たちの間を縫って歩き、なんとか社務所にたどり着く。
開けた瞬間ふわりと良い香りが漂ってきて深く息を吸う。
「お、巫寿お疲れさん」
小上がりに腰掛けて味噌汁を啜る男の人の姿に頬を緩めた。
「禄輪さん!」
「巫寿も食ってけ。力作だぞ」
禄輪さんが我が物顔でそう言えば、せっせと給仕に励む巫女頭が「作ったのは私です!」と不機嫌そうに唇をとがらせた。
肩を竦めてくすくすと笑いながら大きなお椀に入った具沢山の豚汁とラップにくるまれたおにぎりを受け取り、禄輪さんの隣に腰を下ろした。
「具は俺の意見がほとんどだろ」
「それだけじゃないですか。葱もまともに切れないくせに威張らないでください」
「ね、葱くらい切れるぞ」
「いいから早く食べて、年越しまでに祈祷の御依頼片付けて下さい」
「……ったく、分かってるよ。そんなに険しい顔してたら皺になるぞ」
呟き程度の小声はしっかり彼女に届いていたらしい。
面倒みも人当たりもいい巫女頭だけれど、年齢と肌のことだけは指摘されると眉をつり上げる。
ちなみに年齢は頑なに教えてくれない。一体何歳なんだろう。
禄輪さんは肩を竦めて豚汁のお椀で顔を隠した。
禄輪さん、神母坂禄輪さんは今は亡き両親の在学時代からの親友で、私たち兄妹の後見人として何かと世話になっている人だ。
そしてここ、ほだかの社の神主でもある。